今日はいつも通り昼から図書館に行き夜まで本を読んだ。夜からゲームをしてそれから風呂に入った。最後にクイズで遊んで寝た。1時に寝るつもりが3時まで起きてしまった。
最近精神的につらいことがほとんどない。十分な睡眠は精神を安定させる。その感覚がいよいよ実感できるようになっていた。だからこうした夜更かしはあまりすべきでない。寝不足でまた精神が不安定になるかもしれない。
そういえば大学生の頃は徹夜や3時4時に寝ることが当たり前だった。それをするのは勉強のためでなく、ゲームやインターネットといった現実逃避のためだった。被害妄想が激しく周りの人間がすべて敵に見えた。即興で何かを言い出すことができなかった。ミスをすれば死ぬ、失敗は許されない、下手なことは言えないと思っていた。今はそうした被害妄想がありえないことだと分かる。精神が安定し、自分を客観視できるようになったからだ。
ではなぜ今日は夜更かししたかというと、どうしても古いゲームをしたくなったからだ。メタルギアソリッド5に付属しているメタルギアオンライン3(MGO3)だ。このゲームは一見海外によくあるようなTPSゲームだが、メタルギアソリッド固有のシステムがあり、それが他のTPSよりも自分を惹きつけた。メタルギアオンラインにはCQCやステルス迷彩など、他にはない要素がたくさんあるけれど、一番の要素は何と言っても麻酔銃だと思う。麻酔銃は殺傷銃より実用性が低く敵に遭遇したらまず勝てないが、相手の頭に麻酔銃を打ち込めば相手はその場で倒れてしまう。だが相手は死ぬわけではない。一時的に昏睡状態に陥って戦闘不可能になるだけだ。
この昏睡状態こそメタルギアオンラインに戦略的な奥行きをもたらす。昏睡状態から回復するためにはスティックを一定時間グリグリ回し続けるか、仲間に起こしてもらうしかない。誰かが昏睡状態のとき、彼は恰好の餌となる。別の仲間が彼を助けようとするとき、仲間はまったくの無防備だ。仲間をポンポンと叩いて起こしているとき、ボタンを押し続けている間、彼は攻撃することができないからだ。自分はそこを狙って相手の首を締めて尋問したり、麻酔銃で眠らせる。この瞬間がとても楽しい。
また仲間が来なくともスティックでグリグリするのはプレイヤーに相当の負荷をかける。昏睡状態から目覚めて冷静さを失っているところにまた麻酔銃をお見舞いすると、彼はどんどん冷静さを失っていく。相手を拘束する設置型の簡単な罠にさえ気づかなくなる。それであっさり引っかかってしまう。罠から出ようとしているところを麻酔銃で眠らせる。決して殺さないのが鍵だ。拷問のようにじわじわと精神を壊していく。怒っている相手は隠れもせず相手の方からやってくる。それを撃つ。ゲームの死は十数秒の時間的拘束でしかない。自分はそんなものでは済まさない。昏睡状態から回復するにはスティックをグリグリする必要がある。このグリグリこそ生の苦しみの根源そのものだ。ようやく起きた時には弱々しい人間のひとつの命があるだけである。死ねば回復する弾薬も回復しない。弾薬が切れたら肉弾戦しかない。そこを撃つ。目覚めたら相手は逃げる。その無防備な背中を撃つ。決して殺さない。スティックをグリグリするだけでゲームを終わらせてやる。現実逃避した先で現実を追体験させる。
このようなことを自分はMGO3でやってやるつもりだった。事実MGO2ではこれをやっていた。当時自分は中学生だった。MGO2は申し分なかった。これほど熱中したゲームは後にも先にもない。麻酔だ。麻酔がもたらす究極の支配感こそ自分の生きがいだった。
しかしMGO3はまったく別モノだった。MGO3はメタルギアソリッド5の動きに則している。つまり勢いよく走り回ったり、段差を乗り越えたり、上下差の激しい立体的なマップでドンパチ撃ち合うことになる。これでは麻酔が当たらない。麻酔銃はアサルトライフルが5発くらい連射している間に1発しか撃てない。麻酔銃はハンドガンだからだ。それにアサルトライフルの弾が首回りに2発命中しただけで死んでしまう。これでは麻酔銃を使うアドバンテージがまるでない。
MGO3では麻酔銃をわざわざ使う必要がない。麻酔で眠らせる方法は多様化した。MGO2ではポイントを貯めなければ使えなかった非殺傷ショットガンが誰でも毎回使えるようになった。更に睡眠ガスグレネードや設置型催眠ガス噴射器など昏睡状態に落とす選択肢はより増えた。この点はいいと思う。手段が多様化することで戦略に奥行きが出てくる。しかし多様化するにつれますます麻酔銃の利点が失われていく。麻酔銃はハンドガンだ。ハンドガンの利点はあるけれど麻酔である利点はない。麻酔銃を使うくらいならCQCを使ったほうがいい。それくらい弱い。何のためにあるのかさえわからない。
自分は麻酔銃の可能性を信じて今まで麻酔銃を使ってきた。945回麻酔銃でヘッドショットを決めた。しかし死んだ数は4422回だ。気絶させられた回数は1134回、フルトンでは481回飛ばされた。試合になると一番死んでいるのは毎回自分だ。麻酔銃スキルを最大にしてもそうだ。試合をやるたびに蜂の巣にされる。本来のTPSの姿としては妥当だ。しかしこれはメタルギアオンラインではなかったのか。麻酔こそMGOの独創性ではなかったのか。
しかしMGO3の愚痴だけで終わるつもりはない。MGO3の革新的なシステムについても触れておく必要がある。それがフルトンシステムだ。フルトンシステムは相手が気絶して昏睡状態にあるとき近くでボタンを押すと気球が膨らみ、一定時間後相手を空に飛ばすというものだ。空に飛ばした時、相手の殺傷数と同じ数だけポイント(チケット)が自チームに加算される。
どういう点が革新的なのか。バウンティハンターというルールではあらかじめ両チームにポイントが割り振られている。99vs99や30vs30といった感じだ。自分が相手をキルするごとに相手チームのポイントは1ずつ減っていく。先に0になった方が負けだ。ここでフルトンシステムを使うとどうなるか。相手個人が殺傷した数だけ自チームにポイントを加算することになる。つまり16vs4残り時間1分前といった負け寸前の状況で、15人殺傷しているプレイヤーを気絶させフルトンで飛ばすことにより16vs19という状況にひっくり返すことができる。またプレイヤーの殺傷数×100の点数が自分の成績に反映される。キルによる点数が100点だから、自分が15人殺したときの点数に等しい点数1500点を一度に手に入れられる。しかも相手が同じようにフルトンを使ったとしても、自分は誰も殺してないので1×100で100点しか入らない。相手チームのポイントも1回復するだけである。だからいくら10回20回死のうが殺傷武器で殺しにかかってくるプレイヤーがいる限り、チームはいつでも大逆転できるのだ。この興奮があるゆえに自分は貧弱な麻酔銃を構えて何度でも突撃して殺されることができる。殺されるのが楽しみですらある。自分の死は相手の養分だ。養分を吸収しブクブク太ったところで収穫する。MGO2に求めていたものとは明らかに違うが、この点に関して言えばMGO2を超えている。自殺だ。自殺の快楽がある。自分を苦しめるだけ苦しめそれが報われるときの感動がある。入試に受かった時の感動、100km自力で歩いた時の感動、吹奏楽のコンクールで金賞を取った時の感動など今までの苦労の成就が死ぬたびに思い起こされる。まだ自分は死ねる、まだ自分は死ねると思っているのだ。
この日は同じ快感を得ようとした。相手が1人しかいない部屋だったから麻酔とフルトンで嬲り潰そう思っていた。しかしふとあることに気がついた。相手も麻酔使い、しかもハンドガン麻酔銃の使い手だった。それもかなりの手練れだった。相手の称号はイーグル。つまりヘッドショットの達人であることを意味していた。自分は麻酔銃で突撃したが無駄だった。相手は的確に麻酔銃を頭に撃ち込んできた。そしてフルトンで回収されたのは自分だった。ミイラ取りがミイラになった。しかし自分も負けてはいられない。相手が麻酔銃を射出する直前にしゃがむテク(これは相手もやっていた。瞬発的なしゃがみは麻酔銃使いの基本的な動作だ)を有効に使い、ヘッドショットをお見舞いした。フルトンで飛ばすとき、自分は闘いの高揚に打ち震えていた。
しばらくすると別のプレイヤーが参戦してきた。彼は相手チームに入っていきなり自分に襲いかかってきた。自分はそれを見てギョッとした。相手もまたイーグルの称号だったのだ。イーグル2体と2対1で闘うのは絶望的だった。2名とも麻酔銃使いだった。これはまずい。自分は遮蔽物に隠れどうにか1vs1に持ち込める状況を作りヘッドショットを食らわした。2人を一気に撃退できたこともあった。しかしほとんど負けに追い込まれ、自分はイーグルの餌になるのだと確信した。
その時だった。新しいプレイヤーが自分のチームに参戦した。なんとそのプレイヤーは自分がMGO2で麻酔使いを名乗っていた頃、共にウサギの被り物(これはサイレントヒルのロビーくんだ)を被って麻酔銃で闘い、教官部屋でチャットを楽しみ、MGO2のサービスが終了する直前まで共に過ごした古い友人だった。何というドラマだ❗️シールドを片手に相手2名を蹴散らし相手を一掃した。シールドスキルが最大だとシールドダッシュができる。それで相手は気絶しフルトンで飛ばされた。
ここから先は互いに麻酔を撃ち合って戦った。時間があっという間に過ぎた。1時に寝るという話は忘れていた。ひたすら麻酔に取り憑かれていた。
しばらくすると別のプレイヤーが入ってきた。この部屋が成り行きで麻酔バトルをしていたことに無頓着なそのプレイヤーはアサルトライフルをいきなりブッ放した。それで平和な麻酔バトルは終わった。軍用基地に銃声が鳴り響いた。しばらく自分相手に麻酔で戦ってくれたプレイヤーもアサルトライフルを使い始めた。平和の使者はあっけなく殺された。戦争が起こる経緯がなんとなくわかった気がした。
ダム施設のステージになると友人と初めに戦った麻酔使いとチームになり、その他殺傷使いが敵陣に回った。麻酔の底力を見せる勢いだったがあっけなく負けた。相手は常に集団で行動するのでフルトンを使う暇がなかった。ステルス迷彩も効かなかった。ここらへんから死に過ぎてまったく記憶にない。アサルトライフルで相手を撃ち合うつまらない試合だった。友人も最初の相手もいつのまにか消えていた。自分も部屋に挨拶してその場を去った。
ふと過去のことを思い出した。自分にもかつては熱中するものがあったのだ。そこで得た仲間もいた。確かに現実逃避だったかもしれないが、その過去は自分の過去としてちゃんと蓄積されている。自分が分からなくなった時、過去を振り返るのは重要だ。今までそこに居場所を求めるのは嫌だったが、たまに振り返るくらいならいいだろう。それでも夜更かしをする言い訳にはならないが。