人生

やっていきましょう

1112日目

久々に昔やっていたMMORPGを再開した。始めたきっかけはレベル増加量が3倍になるというイベントだったが、自分の狙いは他にあった。

今回自分の頭にあったのは、MMORPGのストーリーはどのように描かれているか、ということだった。自分の考えだけでは行き詰まっていて、何か参考になるものが得られればと思っていた。

ストーリーの内容はそれほど珍しいものではなかった。冒険者になるつもりのなかった主人公が、仲間に誘われて旅をしていくうちに、大きな問題に巻き込まれて自分が世界を守る使命を自覚していく。その過程で内なる声のささやきで英雄の力に目覚めていき、強力な敵と対峙していく。

しかしキャラクター描写という点では学ぶべきところがあった。このストーリーの本筋は使命を果たすことというよりは仲間との交流に力点が置かれており、当然その仲間たちもキャラが立つ演出が成されていた。

当たり前のことかもしれないが、それぞれのキャラクターが固有の個性を抱えている。ある男は明るく外交的で女の仲間をからかう様子も見せる。良くも悪くも感情的で、仲間の関係が不穏になる場面では疑念や怒りといった感情を表に出す。ある女は控えめで自分の主張が言い出せず、仲間の意見が対立することを怖がっている。できればみんなが仲良くしてほしいと思っている(実はこうしたキャラクターを描くのが一番苦手だ)。またある男は孤立し、仲間たちとは距離を取っている。仲間だからといって譲歩することはなく、言いたいことははっきり言うタイプだ。そして別の女は、自分がいつも主導権を握りたがっているような人間で、自分がいつも正しいと思っている。バカにされるとすぐ反撃し、都合の悪いことには耳をふさぐこともある。

こうしたキャラクター描写は決して優れているとは言えない。しかしこれらの演出が一見汎用なストーリーをより面白くしているという事実がある。翻って自分の創作を見てみると、こうした人間の描き方が稚拙だと感じる。この数年で洗練はされてきたものの、どれも基本的には「道理が分かっている人間」という人間像を抱えている(だからご都合主義的に映る)。

MMORPGのストーリーを見ると、NPCやストーリーの進行役にはそのような傾向がみられるが、主人公の仲間についてはむしろ誤解や無能といった欠落の描写を惜しげもなく出している印象を受ける。人はそれほど賢くもなく、思考も洗練されていない。判断は過ち得る。感情を抑えることができない人間もいれば、自分の過ちを認められない人間もいる。そうした人間の弱さを、たとえ対立や衝突といった演出ありきのものだったとしても、ある程度描いていることは評価できる。これは自分に欠けている視点だからだ。

自分は決して人間模様を描きたいわけではない。むしろ世界観や背景の方を考えたい人間である。これをミステリーとSFの二項で比較した人間がいたが、自分は明らかにSF寄りの人間である。しかし登場する人間があまりに無個性で、あまりに似通っているというのはそれはそれで面白くはない。自分はそうした傾向を打開すべく第三章を改善したのだった。そしてそれは概ね成功した。

第四章は第三章で得た学びをより効果的な方法で実践したい。つまり、人間は基本的に異なった性格、価値観、思想、立場を有しており、それが原因ですれ違いや衝突が起こる。その荒波に揉まれる中で、主人公は自分の行く道をはっきりさせる。こうした演出がしたい。そのためにはやはり、登場人物の人間的な背景を設定する必要がある。

特に誤解や無能の演出については殊更の注意を向けておきたい。第三章で敵役として登場する3人組をコミカルに描いたが、第四章ではシリアスな無能を描くことを考えている。

例えばある海外のアドベンチャーゲームでは、主人公であるFBI捜査官の前に無能な地元警察の誤解やすれ違いが捜査の障害となる。また歴史の常として、国の主の側近というのは、自分たちの利権を守ろうとして、国のことを考えようとする人間の障害としてしばしば立ちはだかる。彼らは自作ゲームに登場する道化師のような、「道理が分かっていながら」敢えて逸脱しているような人間ではなく、本当に視野狭窄で、目先の利益やメンツのことしか考えていない。要するに笑えない無能である。

こうしたシリアスな無能をどう配置するかというのが第四章の鍵となる。草案では飾り程度に配置する予定だったが、破るべき敵として立ちはだからせても良いかもしれない。あるいは主要人物の傾向として、こうした話の通じない無能という人物像を演出しても良いかもしれない。

話の通じない無能をどう演出すれば良いか。自分はこうした人間が苦手で、敢えて目を凝らして観察しようとしてこなかった。しかしよくよく考えてみれば、それは自分の傾向をそのまま描きだせば良いということに分かる。

なぜならこうした人間が抱いている感情は、常日頃自分が心の奥底で抱いているものに近しいからだ。自分より優れた人間がいれば劣等感を抱き、嫌いな人間は何から何まで自分に対する悪意に満ちていると誤解する。自分の言う通りにしなかった人間はバカだと思い、逆に自分は基本的に何でも正しく分かっているように思いたがる。そうした先入観を自分は日ごろ勝手な思い込みとして理性で抑えつけているが、それらを解放すれば簡単に無能の人格は生み出せることが分かる。

こうした人間を打ち破るというのはプレイヤーにある程度の快感を与える。そのため第四章を面白くするためのひとつの目標として、効果的な無能の演出を考えることが重要だと自分に言いきかせる必要がある。

無能について考えていくうちに創作意欲が戻って来た。これまで開発にやる気がなかったが、しばらくは無能の開発で持ちそうである。