人生

やっていきましょう

原因は分からないがとにかくずっと精神が不安定で、ついに限界を迎えたので自傷のつもりで山に登ることにした。といっても近くの高尾山で、すぐ帰ってくればいいと思っていた。

正直高尾山くらいなら楽々行けるだろうと考えていた。結論から言えば全然簡単ではなかった。登ってすぐに息切れを起こしめまいがした。それまで運動もランニングもしていなかったので体力がついていかなかった。特に最後の長い階段は肉体的にも精神的にもきつかった。

しかしペース自体はそれほど悪くなかった。死ぬつもりで登ったので精神的に折れるということがなかった。頂上について気づいたがどうやら前とは違うルートを通っていたらしい。

昼食をとっていると途中で悪い発想が頭によぎった。このまま東京に行って皇居を走れば死ねるのではないか。思いついてからすぐ下山して高尾山口駅から直行で新宿に向かった。そこから九段下まで行って皇居を歩くことにした。

正直死んでもおかしくなかった。道は整備されて平坦だったが、北の丸公園から代官町通りを突っ切って千鳥ヶ淵公園に至るまでの一本道で地獄を見た。日照りが一番強い時間帯で、歩道に反射した熱も相まってすぐに意識が不安定になった。同時に高尾山に登った時の疲労で両足のふくらはぎに激痛が走り、走ることもできないまま灼熱の中を歩かなければならなかった。

帰宅はバスにしようと予めバスタ新宿でチケットを買っていた。しかしこの時間帯の設定を誤った。走って行けば十分間に合う時間だったが、例の灼熱とふくらはぎの痛み、そして意識の混濁で思った以上に時間がかかった。一周する前にバスは出てしまう。そこで急遽東京駅で中断し新宿に戻ることにした。

しかしこれがあまりに遠い。気づいたときには三宅坂にいたが東京駅があまりに遠い。時間はもう30分を切っている。本当は走っていかなければいけないが、灼熱と痛みでそれどころではない。

ここで水が切れる。自動販売機は近くにない。とにかく必死に歩き続けるしかない。炎天下で水を飲まないので意識が朦朧としてくる。息切れが激しくなる。その場に倒れそうになる。

桜田門から皇居に入る。中の砂利道から東京駅まで歩く。もう絶対に間に合わない。それでも必死で歩く。都会人が涼しい顔で丸の内を闊歩している中で自分だけが死にかけている。目の前に東京駅が見えたときが一番危なかった。大丈夫ですかと声をかける人はいない。そうした東京の徹底した個人主義が居心地が良かったのだが、この時ばかりは孤独を感じた。

少しでも遅れていたら熱中症で倒れていたと思う。ここ数年の中で一番の臨死体験を味わった。

駅から中央線を通って新宿に向かうが、乗っている途中でバスの時間が過ぎた。結局自分は間に合わなかった。それでかなり落ち込んだが、まあほかのバスに乗ればいいかと考えてそのまま新宿に向かった。

意識が不安定になりながらようやくバスタ新宿にたどり着いた。ここで自分の心が完全に折られる出来事があった。遅れたバスのチケットに対しては一切返金はしないと言うのだ。自分はキャンセル料金100円を払えば済む話だと思っていた。しかしそのキャンセルは予約する前に行われなければならず、しかも電話ではなく新宿の窓口でのみ応対するというのだった。自分は完全に勘違いしていた。これでバスの片道料金数千円を失った。これで自分のメンタルは完全に崩壊した。

元々自傷のつもりで来たのだから良い経験だと思うが、ここまで酷いとは思わなかった。今日学んだことは自分の体力を過信しすぎると後々痛い目を見るということ、思いつきを一度にすべてやろうとするとかならず無理が生じるということ、特に時間制限のある場合は不足の事態に備えてかなり余裕を持たせることが重要だということだ。次からは思いつきに対して必ず計画を挟むようにする。自分の体力を低く見積もって計画を立てる。無理は控える。

そして何より、事前に購入したバスのチケットは定時までに使わないと返金されないということだ。普段使わないからこの辺りのことが分からなかったが、絶対に忘れないようにしたい(ところでこの出来事には既視感がある。いつだったか同じ失敗をしたような気がしてならない。次からはそうならないようにしたい)。

今日は高尾山だけで十分だった。皇居が余計だった。結局自分はその日19kmを歩いた。帰った時にはメンタルが壊れて完全におかしくなっていた。