ふとしたことで記憶を完全に見失うことがある。忘れ物をした、やらなければいけないことを忘れた、さっきまで何の話をしていたか忘れた、これから何を話そうとしていたか忘れた等である。
これが起こる条件は大体決まっている。なにか別のことに意識が向いてしまった時、記憶が完全に消える。それまで何度となく頭の中で反芻し絶対に忘れまいと思っていてさえも、例えば急な用事が入ったり、創作のアイデアをふと思いついた時にはさっきまで考えていたことをもう忘れている。
記憶力の問題というよりは注意力の問題だと思う。自分は注意し続けるということが苦手だ。どうすればいいだろうか。
とりあえず自分が忘れやすい人間だということをまずは受け入れる。忘れやすさを変えることは難しい。変えることができるのは、問題に向き合うことの態度だ。
重要度の高さに応じて対処は異なる。最も重要な部類の問題は常にメモを取る。そして事あるごとにメモの内容を確認するという習慣を確実に身につける。様々な問題を一度に記憶することができないなら、それらすべてを覚えようとせず「メモを参照する」というシンプルな判断にすべて一任した方がいい。
そこまで重要でない問題はメモを取らず泳がせておく。無理に解決を目指す必要はないが、どうしても思い出したいなら、注意の訓練が必要だと思う。
よく仕事で働いている人間が、指差し確認を行っているのを見たことがある。初めは気分でやっているのかと思ったが、自分の注意を確かめる上ではかなり有効であるように思う。
例えば自分が家の鍵を棚の上に置いてそのまま場所を忘れてしまったとする。この時自分は完全にどこに鍵を置いたのかを忘れてしまっている。ここで自分がもし何か鍵に関する直近の記憶らしきものを少しでも頭に浮かんだならば、鍵を見つけることは容易いだろう。
指差し確認は記憶を喚起させる。指で対象を指して対象のイメージを記憶する。同時に、対象が問題の中でどう位置付けられているかを記憶し結びつける。例えば鍵を確かに置いたというイメージは、本来であれば一瞬視界に入った程度の杜撰で曖昧なものだが、指を差して確認することで自分はあの時、確かに注意したという事実を思い出させてくれる。